ディレクターズ・メッセージ
ぼんやりと遠くを見ていた。
目を閉じると光だけが残った。
――小林のりお『LANDSCAPES』(1986年)
光の記憶。
かつて想像された未来空間へ実際に立ち会った時、新しかったはずのこの場所へと向けられる、複雑な感情をどのように表現すれば良いのだろう? 『ニュー・フラット・フィールド』という展覧会は、20世紀に誕生した郊外空間を舞台としながら、そのような問いに端を発しています。理想郷としてのニュータウン/新しい街は、とうに新陳代謝を失い、色褪せ、透明だった窓たちは半透明なものへと変化したように思われます。
そこで、人々によって生きられた空間を、眺めることから始めてみる。
そして、人工都市に漂う浮遊感の中に、微細な、変化の兆候を見出すよう努めてみる。
『ニュー・フラット・フィールド』の「New」は、新しさを謳いながら、必ずしも新しさを意味することなく、まるで、もう一度その新しさを生き直しているかのようです。そこには、多層的な新しさが重なり合います。
何も起きることのない平坦な戦場(※)を、一息に駆け抜けた私たちは、かつて夢見た未来空間を確かに生きています。しかしながら、私たち自身は、その未来に追いつくことは決してなく、別の未来へと向けて歩み始めます。
それは、表層的な既視感の中で、未だかつて誰も見たことのなかった、新しい風景となることでしょう。
※ウィリアム・ギブソン『愛する人(みっつの頭のための声)』(1989年)、岡崎京子『リバーズ・エッジ』(1994年)
石井友人
虹の彼方
中学生だった頃、ふとしたことがきっかけで、慣れ親しんでいた多摩ニュータウンにあるテーマパーク、サンリオ・ピューロランドの虹のファサードの脇の道から、その裏手を見に行ったことがあります。夢のエンターテイメント空間の裏側に回り込むと、そこには異様にのっぺりしたテーマパークの高い壁面があり、不思議なくらいいつも通りの、ごく普通の生活空間が広がっていました。「虹の彼方」と銘打ったセクションでは、アーティストの誘導する視線の先に、ひょっこり露呈してしまっている/いた消費社会の舞台裏、あるいは、七色の発光物に魅入っている/いた私たち自身の姿が認められるでしょう。一旦立ち止まり、少し退色した虹の向こう側に広がっている光景を、いま一度想像してみましょう。
企画構成:石井友人
参加作家:石井友人、Candy Factory Projects、小林のりお